予後についてどのように伝えるかには配慮が必要である。適切な薬物療法、精神療法、生活上の工夫、リハビリテーションによって寛解・回復にいたる患者が多い半面、再燃・再発・慢性化・難治化により、年余にわたり好ましい経過に到達しにくい症例も存在する。例えば米国のSTAR*D研究の結果によれば(Rush et al, 2006)、各種の抗うつ薬投与や、増強療法(オーグメンテーション)、認知行動療法を併用しても、48~60週間での累積寛解率は67%程度に留まっている。過度に経過を楽観視させるような説明は、「薬を飲んで、休んでいれば、それだけで調子よくしてもらえる」といった、医療への過剰な依存・退行を引き起こし、患者側に必要とされる治療への積極的参加(真のアドヒアランス)が放棄されてしまう懸念もある。したがって治療初期から、「薬物を服用すれば十分」とはせず、周囲のサポートを受け入れることや、生活上の工夫、段階的なリハビリが必要である旨を伝えておく。
早期に抗うつ薬を中止・減量することは再燃の危険性を高める。とりわけ、寛解後26週は抗うつ薬の再燃予防効果が立証されており(Reimherr et al, 1998)、欧米のガイドラインは、副作用の問題がなければ初発例の寛解後4~9ヵ月、またはそれ以上の期間、急性期と同用量で維持すべきとしている(American Psychiatric Association, 2010; Lam et al, 2009)。
抑うつ相を繰り返す患者は再発危険率が高いが、これらの再発性うつ病の患者に対しても抗うつ薬を1~3年間急性期と同用量で継続使用した場合の再発予防効果が立証されている(Geddes et al, 2003)。したがって、再発例では2年以上にわたる抗うつ薬の維持療法が強く勧められる(American Psychiatric Association, 2010; Lam et al, 2009)。しかし、再発例では双極性障害の可能性が高い(Perlis et al, 2006)ので注意が必要である。抗うつ薬を減量あるいは中止する際には「中止後(中断)症候群」に注意が必要であり、緩徐に漸減することが原則となる(Baldessarini et al, 2010)。漸減中に抑うつ症状の悪化した場合には、減薬前の量に一旦戻す。
また、以下に述べる認知療法・認知行動療法あるいは対人関係療法を薬物療法と併用した場合は薬物療法単独に比べて再発予防効果が高いことが立証されている(Cuijpers et al, 2009; Lynch et al, 2010)。