唐突にきた。
自分でも驚くほど不思議なことに、これに対する返答を準備していなかった。
我が家ではうつ病という言葉はこどもにはなるべく聞かせないようにしていた。小さなこどもでは理解するのも難しいだろうし、よく分からないまま使って欲しくない言葉だから。大人だって十分理解するのは難しい。しかし自然と耳に入ってくるものだ。どう答えたものかなと少し悩んで、
「疲れやすいってことだよ」
と答えた。
ふわっとした答えだがだいたい合ってるはず。
「ふーん」
そんなに興味はないようだ。それ以上聞いてくることもなく、遊び始めた。
辛かった色々なことを話すにはまだ早い。
あの特に症状がひどく動けなかった数年間、薄暗い部屋で訳の分からない憂鬱と焦燥感でベッドに縛り付けられた僕を救ってくれたのは、散歩に行こうと手を握って玄関から引っ張り出してくれた小さな小さな君だったんだと、いつか伝えられたら良い。